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PSIについての調査

目次

背景

  • 数年前、ファミコン版『MOTHER2』をプレイしてから、考え方が少し変わった
  • MOTHER2はPSI(超能力)を使って戦うゲーム
  • そして、ネタバレになるが『MOTHER2』ではラスボスを倒す唯一の手段が「祈り」だった
  • その時に、人間が行う「祈り」も、テレパシー的な行為の一種ではないかと感じた
  • PSI(超能力)なんてゲームの中だけの話だと思っていたが実は人間が行う祈りもその一種だと気がついた
  • そこで、PSIという概念そのものの定義、超心理学における分類、科学的な検証の歴史と現状を整理する

PSIの定義

「PSI」という語には、いくつかの意味がある。

ゲーム(MOTHERシリーズ)での定義

  • MOTHERシリーズ(開発: 糸井重里)では、PSIは「科学とオカルトの中間」を意識した、機械文明に対抗する心の力として位置づけられているとされる
  • その「心」とは、少年少女の想念を指すという説明がされている(この具体的な発言の一次資料は今回確認できていない)
  • ゲーム内では、攻撃・回復・補助などに分類される特殊能力として登場する

超心理学での定義

  • 超心理学では、PSIはESP・予知・PKなどの超常的な心的作用を引き起こす(かもしれない)未知の因子を指す
  • 用法は大きく2つある
    • ギリシャ文字ψの記号としての用法
    • ESP・サイコキネシスなどを含む「パラ心理現象の総称」としての用法
  • 「psi」という語自体は、心理学者Robert H. Thoulessが1942年の論考で導入した。用語の提案者としては、生理学者Bertold Wiesnerの功績としている

ESPの定義

  • 1930年代、J.B. Rhineが提唱した超心理学の学術用語
  • ESP = Extrasensory Perceptionの略で、「Extra(外の)+ sensory perception(感覚知覚)」という意味
  • 日本語では超感覚的知覚・超感覚知覚・超感覚的知覚能力などと訳される
  • つまり、五感や既知の物理的経路を介さずに情報を受け取るとされる知覚現象の総称

ポケモンの定義

  • ポケモンの「エスパータイプ」という日本語名は、ESPが語源
  • 英語版では「Psychic type」という名称になっている
  • ちなみに、ポケモンはMOTHER2の影響を強く受けてできたゲーム
  • システムやマップ、PSIタイプなどMOTHER2に似た要素がたくさんある

テレキネシスとサイコキネシスの違い

テレキネシスとサイコキネシスはよく聞く言葉だが、意味が異なる。

  • テレキネシス(telekinesis)
    • TK: tele(遠く離れた)+ kinesis(運動)
    • 「遠隔で物体を動かす」という、物体の位置や運動に直接変化を起こす能力を指す
  • サイコキネシス(psychokinesis)
    • PK: psyche(心)+ kinesis(運動)
    • テレキネシスを含むより広い概念
    • 「心が物理的現象に影響を与えること」全般を指す

つまり、物理か精神かの違いだし、これもポケモンの攻撃と特攻の概念に少し近いと思っている。

PSIの区分

PSIの区分(psi-gamma/psi-kappa)

Robert H. ThoulessとBertold Wiesnerは、1947年の論文で、PSIを2つに区分することを提案した。

区分対象
psi-kappa(ψ-κ)物理干渉系(PK)サイコキネシス、ポルターガイスト
psi-gamma(ψ-γ)情報取得系(ESP)テレパシー、透視、予知夢

ESPとPKを「1つの過程の異なる側面」として捉えるための呼び分けとされ、後にpassive psi(受動的psi)・active psi(能動的psi)という呼び方にも発展した。

効果の大きさによるPSIの区分

効果の大きさによる区分もある。

  • マクロPK:
    • 肉眼で確認できる規模の現象
    • 再現例が少なく、トリックの排除が鍵になる
  • ミクロPK:
    • 統計的にしか見えない微細な効果
    • 大量データの解析とバイアス対策が鍵になる

psi-kappa(PK、物理干渉系)の主な現象

現象概略主な例・バリエーション
テレキネシス/サイコキネシス(TK/PK)精神力で物体に直接作用し、移動・変形・浮上などを起こすとされるスプーン曲げ、レヴィテーション、ポルターガイスト
マクロPK肉眼で確認できる規模の物体移動・変形浮揚、石の落下、投擲現象
ミクロPK物理量に微細な偏りを生じさせる乱数発生器(RNG)の偏向実験
バイオPK(Psychic Healing)生体や細胞活動に影響を及ぼすとされる手かざし療法、遠隔治療
パイロキネシス/クリオキネシス火・熱、氷・冷気を発生・制御すると主張される
アポート(Object Teleportation)物体が瞬時に別の場所へ出現・消失するポルターガイストの投射物など

psi-gamma(ESP、情報取得系)の主な現象

現象概略主な例・バリエーション
テレパシー非言語・非行動的手段を介さずに思考・感情が伝達されるとされるカード透視実験、家族間の「虫の知らせ」
クレアボヤンス(透視)遮蔽物の向こうや離れた場所の情報を直接知覚透視テスト、リモートビューイング
プレコグニション(予知)未来の出来事を事前に知覚予知夢、直感的予感
レトロコグニション体験していない過去の出来事を知覚遺失物の来歴透視
クレアオーディエンス通常の聴覚を介さず音声情報を受け取る「内なる声」の聴取
サイコメトリー物品に触れることで持ち主や歴史の情報を読み取る遺品鑑定透視

有名な研究

RhineのESPカード実験(1930年代、デューク大学)

  • J.B. Rhineは1927年にデューク大学に着任し、1930年代からESPの実験的研究を開始
  • 知覚心理学者Karl Zenerと共同で、星・円・十字・波線・四角の5種類の記号を5枚ずつ含む「Zenerカード」(25枚1組)を考案
  • 被験者に、別室にある未公開のカードの記号を当てさせるという実験手法
  • 1934年にExtra-Sensory Perceptionを出版し、「ESP」という語を広めた
  • のちに、統計的評価の甘さ・実験プロトコルの不備・追試での効果の減衰などが指摘されるようになった

Ganzfeld実験

そもそもPSIが存在するのかどうかは、科学的な検証の対象にもなってきた。その代表例がGanzfeld実験。

  • ガンツフェルトはドイツ語で「全視野」を意味する
  • 被験者の目をアイマスクで覆い、耳にはホワイトノイズを流すことで、全感覚への入力を遮断する
  • 感覚的に世界から隔絶した状態で、被験者は隣室の実験者が見ている一連の絵の情報を、テレパシーで受け取ろうと試みる
  • この実験を何千回も繰り返した結果、チャンスレベル(25%)よりもわずかに高い、30%前後の的中率が報告された

ただし、この結果を巡っては激しい論争が起きた。

  • 懐疑派の心理学者Ray Hymanと、超心理学者Charles Honortonが、同じデータセットを分析して正反対の結論を出した
    • Honorton側の集計: 42研究中55%が成功
    • Hyman側の再分析: 研究の非独立性やレポートバイアスを指摘し、成功率を31%まで引き下げ
  • 議論の応酬の末、両者は1986年に「Joint Communiqué」を発表し、今後の実験ではより厳格な基準を用いること、より幅広い研究者が検証に関わることで合意した
  • 結局のところ、実際には再現性が乏しく、統計的な疑義も根強く残っている

CIAのStargate計画(1970年代〜1995年)

  • Stanford Research Institute(SRI)とSAICを拠点に、20年以上にわたって実施された、リモートビューイング(遠隔透視)を諜報活動に応用しようとする米政府の研究計画
  • 1995年に機密解除され、American Institutes for Researchによる独立評価が行われた
  • 評価にあたったJessica UttsとRay Hymanの結論は分かれた
    • Utts: 統計的には、何らかの異常な情報伝達過程を支持する証拠があるとした
    • Hyman: 統計的な議論とは別に、実際の諜報活動に使える運用上の有用性は無いとした
  • 最終的な評価は、「興味深い結果はあったが、信頼できる諜報情報は得られなかった」というもの

Daryl Bemの「Feeling the Future」論文と再現性危機(2011年)

  • 心理学者Daryl Bemが、一流の学術誌Journal of Personality and Social Psychology(JPSP)に、9つの実験のうち8つで予知能力を示す統計的に有意な結果を報告する論文を発表
  • 査読を経ており、統計手法自体も当時の心理学では標準的なものだった
  • しかし、この論文が結果的に心理学全体の「再現性危機(replication crisis)」の発端の1つになった
    • 同じ号に、Wagenmakers, Wetzels, Borsboom, van der Maasらが、ベイズ統計の観点からBemの結果を批判する論文を掲載
    • researcher degrees of freedom(研究者の自由度、分析手法を都合よく選べてしまう問題)という概念が広く注目されるきっかけになった
  • 2012年、Ritchie・Wiseman・Frenchらによる3つの追試はいずれも有意な効果を示さず(結合サンプルでp=0.83)
  • 同年、Galakらによる7つの追試でも予知能力の証拠は得られなかった
  • 2015年、Bem自身が33研究機関・90実験を集めたメタ分析を発表(効果量Hedges’ g=0.09)したが、これも方法論的に物議を醸した
  • 2013年頃には、方法論に詳しい心理学者の間で「Bemの効果は研究者の自由度によるアーティファクトであり、Psiの証拠ではない」という見解がおおむね共有されるようになった

現在のPsiの評価

統計学との接点

  • Psi研究の歴史は、統計的検定の誤用・乱用の歴史でもある
  • p-hacking(都合の良い結果が出るまで分析方法を変える)、optional stopping(都合の良いところでデータ収集を打ち切る)といった問題は、Bemの論文批判を通じて広く知られるようになった
  • 事前登録(preregistration、分析計画を事前に固定して公開しておくこと)が心理学で重視されるきっかけの1つになった
  • Bem論文への反論としてベイズ統計が使われたことも象徴的で、頻度主義とベイズ主義のどちらで検定するかによって結論が変わりうることを広く印象づけた
  • Decline effect(衰退効果、当初強かった効果が追試を重ねるごとに弱まっていく現象)は、Rhine自身が1930年代に既に報告していた

現在の科学的評価

  • Ray Hymanは、次にように評価している
    • 「Psiには1つのパラダイム実験(誰がやっても再現できる決定的な実験)も存在しない」
    • 「約160年続いたこの学問分野は、もはや存在しないと言ってよい」
  • Susan Blackmoreは、長年Psiの証拠を探し続けたが有意な支持を得られず、研究から離脱した代表的な人物
  • 心理学者を対象にした調査では、ESPを「確立した事実」または「可能性が高い」と考える割合は34%程度に留まる
  • 主流の科学界では、Psi現象の存在を裏付ける確立された証拠は無いというのが現在のコンセンサス

余談: ギリシャ文字

ψ(プサイ)

  • ψ(プサイ)は、ギリシャ語で「心・魂」を意味するpsyche(プシュケー)を直観的に示す文字
  • そして、心理学のシンボルにも採用されている

なお、先述のpsi-kappa/psi-gammaという呼び分けについては、次のような説がある。

  • kappa: kinetic(運動の)のkに掛けた命名という説
  • gamma: go through(情報が通り抜けていく)のイメージという説

MOTHERのギリシャ文字

ちなみに、ゲーム『MOTHER』シリーズのPSIにも、ギリシャ文字が能力レベルとして使われている。

文字(読み)役割・作品
α(Alpha)初級レベル
β(Beta)強化レベル
γ(Gamma)上級レベル
Ω(Omega)最終レベル(大文字)
π(Pi)ライフアップの全体版(MOTHER 1のみ)
Σ(Sigma)シールドの全体版(MOTHER 2のみ)
δ(Delta)広範囲の状態異常を治療(MOTHER 3のみ)

まとめ

  • 『MOTHER2』をプレイして、祈りも一種のテレパシー的行為ではないかと感じたことが、この記事を書くきっかけになった
  • 超心理学における「psi」という語は、Thoulessらによって導入された、ESP・PKを総称する言葉で、科学とオカルトの中間領域を扱う
  • RhineのESPカード実験、Ganzfeld実験、CIAのStargate計画、Bemの2011年論文と、約1世紀にわたって繰り返し検証されてきたが、いずれも独立した追試や厳密な統計的検討によって効果が弱まる、または消失するというパターンを繰り返している
  • 現在の科学的コンセンサスとしては、Psi現象の存在を支持する確立された証拠は無いとされている
  • とはいえ、祈りによって「心が整う」「行動が変わる」という心理・社会的効果までは否定できない
  • そのため、「祈り=単なる迷信」と単純に切り捨てるのではなく、心的リソースを活かす営みとして尊重したい

参考文献

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