目次
背景
- JISで統計の用語や表記法が定義されているらしいのでAIに調べてもらったログ
- $\mathrm{V}[X]$と書いたり、$Var[X]$と書いたり、$σ^2$と書いたり色々な表記法があるため気になっていたから
規格の全体像
統計まわりのJISは大きく2系統あり、役割が異なる。
- JIS Z 8101シリーズ:統計・確率の用語と記号そのものを定義する規格。ISO 3534シリーズと一致(IDT)
- JIS Z 8101-1:一般統計用語及び確率で用いられる用語
- JIS Z 8101-2:統計の応用(サンプリング・推定・検定・品質管理)
- JIS Z 9041シリーズ:現場(工場・実験室)でデータをどう記述・推定・検定するかという実務手順を定めた規格。用語の定義はZ 8101シリーズに準拠すると明記されている
- JIS Z 9041-1:データの統計的記述
- JIS Z 9041-2:平均と分散に関する検定・推定
- JIS Z 9041-3:比率に関する検定・推定
- JIS Z 9041-4:平均と分散に関する検定の検出力
つまり「記号の意味を定義する辞書」がZ 8101、「その記号を使って実際どう計算するかの手順書」がZ 9041、という関係。
JIS Z 8101-1:確率で用いられる用語・記号
理論上の確率変数・分布に関する記号。
| 項目番号 | 用語 | 記号 | 定義 |
|---|---|---|---|
| 2.5 | 事象$A$の確率 | $P(A)$ | 事象に割り当てられる$[0,1]$の実数 |
| 2.6 | 条件付き確率 | $P(A \mid B)$ | $A$と$B$の共通部分の確率を$B$の確率で割ったもの |
| 2.10 | 確率変数 | $X$ | 標本空間上で定義された実ベクトル値関数 |
| 2.7 | 分布関数 | $F(x)$ | 事象$(-\infty, x]$の確率を与える$x$の関数 |
| 2.26 | 確率密度関数 | $f(x)$ | 連続分布の分布関数の被積分関数 |
| 2.12 | 期待値 | $E[g(X)]$ | 確率変数の関数の確率測度に関する積分(角括弧) |
| 2.35 | 母平均 | $\mu$ | 確率密度関数と$x$の積の積分 |
| 2.36 | 母分散 | $V$($V(X)$) | 中心化確率分布の2次モーメント。$V(X)=E\{[X-E(X)]^2\}$ |
| 2.37 | 標準偏差 | $\sigma$ | 母分散の非負の平方根 |
| 2.43 | 共分散 | $\sigma_{XY}$ | 二つの中心化確率変数の積の平均 |
| 2.13 | $p$分位点 | $X_p$ | 分布関数が$p$以上になる$x$の下限 |
| 2.14 | メディアン | — | 0.5分位点 |
| 2.27 | モード(最頻値) | — | 確率密度関数が局所的に最大となる値 |
| 2.31 | 中心化確率変数 | — | 確率変数から母平均を引いたもの |
| 2.33 | 標準化確率変数 | — | 母標準偏差が1である中心化確率変数 |
| 2.4 | 独立事象 | — | 共通部分の確率が個別確率の積になる事象の対 |
| 2.9 | 母数(パラメータ) | — | 分布族のインデックス |
- 期待値は
E[g(X)]と角括弧、分散はV(X)と丸括弧で表記される(表記が統一されていない点は少し紛らわしい) - 標準偏差は
D(X)ではなく$\sigma$($D(X)$という記号自体は定義されていない) - 二項分布・正規分布・ポアソン分布・t分布・F分布・カイ二乗分布・指数分布・ベータ分布・ワイブル分布などの代表的な分布も、この規格内で名称と定義(密度関数の式など)が与えられている
同じ規格内にある「標本」統計量の記号(第1章)
Z 8101-1の第1章では、観測データそのものから計算する統計量の記号も定義されている。
| 項目番号 | 用語 | 記号 | 定義 |
|---|---|---|---|
| 1.15 | 標本平均 | $\bar{x}$ | ランダムサンプルの和を個数で割った量 |
| 1.16 | 標本分散 | $S^2$ | 標本平均からの偏差2乗和を(サンプルサイズ$-1$)で割った量 |
| 1.17 | 標本標準偏差 | $S$ | 標本分散の非負の平方根 |
| 1.13 | 標本メディアン | — | 奇数$n$なら中央の値、偶数なら中央2値の平均 |
| 1.14 | 標本モーメント | $E(X^k)$ | 確率変数の$k$乗の和を観測値数で割った量 |
| 1.20 | 標本歪度 | — | 標準化標本確率変数の3乗の算術平均 |
| 1.21 | 標本尖度 | — | 標準化標本確率変数の4乗の算術平均 |
| 1.23 | 標本相関係数 | $r_{xy}$ | 標本共分散を対応する標本標準偏差の積で割った量 |
JIS Z 8101-2:統計の応用(サンプリング・推定・検定)
ISO 3534-2に一致。サンプリングや品質管理の現場で使う用語・記号。
| 項目番号 | 用語 | 記号 | 定義 |
|---|---|---|---|
| 1.2.17 | サンプル | — | 一つ以上のサンプリング単位からなる母集団の部分集合 |
| 1.2.14 | サンプリング単位 | — | 母集団を分割した実質的な最小単位 |
| 1.2.26 | サンプルサイズ | — | サンプル中のサンプリング単位の数 |
| 1.3.4 | 単純ランダムサンプリング | — | $n$個の全ての組合せが同じ確率で抽出される方法 |
| 1.2.2 | 母集団パラメータ | $\mu, \sigma$ | 母集団のある特性を要約する量 |
| 1.2.18 | 標本統計量 | $\bar{X}, S$ | サンプルから得た観測値を要約する量 |
| 2.6.2 | プロセスパフォーマンス指数 | $P_p$ | 規格幅に対応したパフォーマンスを表す指数 |
| 4.6.1 | 合格の確率 | $P_a$ | 定めた抜取方式でロットが合格となる確率 |
| 4.6.2 | 消費者危険 | $\beta$ | 不満足品質で合格となる確率 |
| 4.6.4 | 生産者危険 | $\alpha$ | 合格品質で不合格となる確率 |
JIS Z 9041-1:データの統計的記述の記号
こちらは理論的な確率変数の話ではなく、工場や実験室で実際に測定したデータをどう記述するかという実務規格。3.2「記号」に以下がまとめられている。
| 記号 | 意味 | 定義・計算式 |
|---|---|---|
| $f$ | 度数 | 各級に属する測定値の出現度数 |
| $x$ | 測定値 | 個々の値は$x_1, x_2, x_3, \dots$ |
| $x_{(i)}$ | 順序統計量 | 測定値を大きさ順に並べた第$i$番目 |
| $\tilde{x}$ | メディアン | 中央に位置する値 |
| $x_{\max}, x_{\min}$ | 最大値・最小値 | 測定値の最大値・最小値 |
| $S$ | 平方和 | $\sum(x_i-\bar{x})^2$ |
| $S(x,y)$ | 積和(2変数) | $\sum(x_i-\bar{x})(y_i-\bar{y})$ |
| $V$ | 不偏分散 | $S/(n-1)$ |
| $h$ | 級の幅 | 度数分布における階級幅 |
| $C_p$ | 工程能力指数 | 工程のばらつきを規格幅と比較する指数 |
混同しやすいポイント
同じアルファベットが規格をまたぐと意味が変わってしまう例がある。
- $S$:Z 8101-1では「標本標準偏差」だが、Z 9041-1では「平方和(標準偏差ではない)」を指す
- $V$:Z 8101-1では「母分散」(確率変数の理論的な分散)だが、Z 9041-1では「不偏分散」=$S/(n-1)$(標本から計算した推定値)を指す
- 期待値・分散の括弧:期待値は
E[ ](角括弧)、分散はV( )(丸括弧)と、同じ規格内でも記号の種類が揃っていない
理論の話(確率変数・母集団のパラメータ)をしているのか、実データから計算した統計量の話をしているのかを区別すれば、この手の記号の衝突は避けやすい。
まとめ
- 統計まわりのJISは「用語・記号を定義するZ 8101」と「実務手順を定めるZ 9041」の2系統に分かれている
- Z 8101はさらに、理論的な確率変数の記号(第2章)と、データから計算する標本統計量の記号(第1章)を1つの規格内に含んでいる
- $S$や$V$のように、規格をまたぐと同じ記号が別の意味で使われている箇所があるので、どの規格・どの文脈の記号かを意識する必要がある
