目次
背景
- 一番好きな言葉は、Max Moreの「Extropy」
- 英辞郎による定義は以下
エクストロピー◆生命体は科学技術の力によって従来の限界を超えてその力を伸ばし続けることが可能だという超人間主義(transhumanism)に基づいた、生命体がその知能やエネルギーなどを増進させ生長させる度合いのことを指す。技術的な用語ではなく概念的な言葉であり、エントロピー(entropy)の反意語というわけではない。1987年南カリフォルニア大学にいたTom Bellの造語で、そこで出会ったイギリスのマックス・モア(Max More)が論文でこの言葉の定義を行った。
- ただし、実際の雑誌を読んだ経験はなく、深く理解しているわけでもない
- そこで、雑誌の全号をAIに読ませ、各号の内容を整理した
Extropy Magazineとは
- 1988年から1996年までに全17号を刊行
- 初号の発行部数はわずか50部
- 当初は小規模な未来思想マガジン
- 後半には、AI、暗号技術、ナノテクノロジー、寿命延長、分散社会などを扱うトランスヒューマニズムの主要媒体へ発展
- PDFはGitHub上に各号版と全17号統合OCR版が存在 (The Extropian Archives)
Extropyとは何か
一言で表すと、以下の思想。
人間や社会を完成済みのものと考えず、理性・科学・技術・自己変革によって、知性、生命力、自由、選択肢、改善能力を増やし続けようとする思想
Max MoreによるExtropyの定義は、生命や組織が持つ以下の要素の程度。
- 知性
- 機能的秩序
- 活力
- 改善する能力
- 改善しようとする意欲
ただし、熱力学におけるエントロピーと対になる科学的な物理量ではない。
公式文書における位置づけも、実在する力ではなく、人間の繁栄に寄与するものをまとめて表現する比喩。 (Extropy Institute)
「Extropy」が持つ三つの意味。
- 価値を表す比喩
- 秩序
- 知性
- 生命力
- 可能性
- 成長
- 改善能力 これらが増える方向を示す概念。
- Extropianismという哲学
- トランスヒューマニズムの一派
- 老化、死、知能、身体、心理、社会制度を固定的な限界とみなさない思想
- 雑誌・研究コミュニティー
- Max MoreとTom Bell/T. O. Morrowが始めた雑誌
- Extropy Institute
- カンファレンス
- メーリングリスト
- それらを含む思想運動
雑誌時代の中心原則は以下の五つ。
- Boundless Expansion
- Self-Transformation
- Dynamic Optimism
- Intelligent Technology
- Spontaneous Order
後の改訂版では以下の七原則へ再整理。
- 永続的進歩
- 自己変革
- 実践的楽観主義
- 知的技術
- 開かれた社会
- 自己決定
- 合理的思考
初期に強かった市場アナーキズム色も、改訂を重ねるにつれて多少穏健化。 (MROB)
全17号には何が書かれているか
全号の主要記事と中心テーマは以下。
第1〜15号は各号のアーカイブ目次、第16号はOCR全文、第17号は当時のExtropy Institute公式紹介も参照。 (HplusPedia)
| 号・時期 | 中心的な内容 |
|---|---|
| #1・1988年秋 | Extropy思想の宣言。AI、知能増強、生命延長、冷凍保存、ナノテク、宇宙移住、ミーム、心理改造、自由市場を一つの世界観に統合。「Morality or Reality?」 |
| #2・1989年冬 | Hans Moravec『Mind Children』、進化論と知性、即席栄養食、情報時代の倫理「Wisdomism」、ナノテクニュース。 |
| #3・1989年春 | 愛を契約として考えられるか、価値共有としての愛、性情報、サイケデリクスと精神拡張。技術だけでなく親密性まで再設計しようとする号。 |
| #4・1989年夏 | 「悪魔礼賛」という反伝統的論考、ニューラルネット、なぜ一夫一婦制なのか、死の何が悪いのか、FM-2030、効率的美学。 |
| #5・1990年冬 | Arch-Anarchy、Deep Anarchy、国家という概念の除去、パーセプトロン、生物種の喪失と競争、薬物文化、Extropian Declaration。政治的に最も急進的な初期号の一つ。 |
| #6・1990年夏 | Max More「Transhumanism: Towards a Futurist Philosophy」、死の熱力学、Extropian Principles、ニューロコンピューティング。運動の哲学的骨格が成立。 |
| #7・1991年春 | 冷凍保存を普及させるミーム戦略、私的に生産される法、中央管理者なしの秩序、自己組織化ニューラルネット、未来語彙集。 |
| #8・1991〜92年冬 | Robin HansonのIdea Futures=予測市場、Dynamic Optimism、人工生命、宇宙都市Extropia、人間からトランスヒューマン、ポストヒューマンへの移行。 |
| #9・1992年夏 | Extropian Principles 2.0、Institute発足、人格とプログラムと意識アップロード、遺伝的アルゴリズム、ナノテクと信仰、計算と時間旅行、運動と長寿。 |
| #10・1993年冬春 | Hans Moravecのサイバースペース論、Hal Finneyの匿名電子現金、Max Moreの技術的自己変革、ナノコンピューター、デジタル人格。現在から見ても特に先見的な号。 |
| #11・1993年夏秋 | Ralph Merkleの意識アップロード、Principles 2.5、通過可能なワームホール、ポスト・シンギュラリティ、Julian Simonの人口・資源悲観論批判。 |
| #12・1994年第1四半期 | 海洋植民、地球最後の自由空間、論理言語による合理性強化、メディアと開かれた社会、ナノマシンによる警察・防衛、ワームホール戦争。 |
| #13・1994年第3四半期 | Nick Szaboの宇宙文明、Robin Hanson「アップロードが先に来たら」、Utility Fog、宗教とシンギュラリティ、時系列ニューラルネット。 |
| #14・1995年第1四半期 | Utility Fog後編、長寿研究者Roy Walford、進化的建築、小型アップロード、Prozacなどの精神機能強化、『Physics of Immortality』の批評。 |
| #15・1995年第2〜3四半期 | 複数の未来予測、デジタルキャッシュ入門、電子通貨の経済学、Hayekの通貨自由化、FM-2030、メラトニン、インターネットを知覚補助装置として見る議論。 |
| #16・1996年第1四半期 | 知的情報フィルターとEnhanced Reality、脳・記憶・神経補綴、DNAコンピューター、予測市場のWeb実装、Nick Szabo「Smart Contracts」、環境政策、身体強化。 |
| #17・1996年後半 | 宇宙と音楽、アンチエイジング会議、John Perry Barlowの「サイバースペース独立宣言」批判、分子ロボット、能力強化と法、Timothy Learyの死と冷凍保存、DHEA、クレアチン、Fractal Mazes。 |
全号を貫く七つのテーマ
1. 死と老化は「自然だから受け入れるもの」ではない
Extropyで繰り返し扱われるテーマ。
- 冷凍保存
- 長寿医学
- 栄養
- ホルモン
- 脳保存
- 意識アップロード
これらを別々の話題ではなく、一つの連続した課題として認識。
Extropiansにとっての死は、宗教的な意味を与えて受容する対象ではない。
技術的・医学的に解決すべき問題という位置づけ。
一方で、誌面には以下が混在。
- 長寿研究に基づく記事
- 根拠がまだ弱いサプリメント
- スマートドラッグ
- 実験的医療
- 自己啓発
- 生命延長商品の広告
科学、実験、思想、商業宣伝の境界は、現在の学術誌よりもかなり曖昧。
第16号にも、メラトニン、性機能、各種生命延長商品に関する記事や広告が混在。 (Internet Archive)
2. 人間は固定された生物種ではない
身体や精神を変更可能な設計対象として捉える思想。
変更対象として扱われるもの。
- 身体
- 知能
- 感情
- 性
- 人格
- 記憶
ここでいう自己変革は、美容や健康の改善に限定されない。
- ニューラルインターフェース
- 遺伝的改良
- 薬理的認知強化
- AIとの統合
- 非生物的媒体への人格移行
人類を進化の最終形とは考えない。
ポストヒューマンへ向かう暫定段階としての人間観。 (MROB)
3. AIと脳を同じ「情報処理システム」として考える
雑誌内で繰り返し登場する研究分野。
- ニューラルネット
- 人工生命
- 遺伝的アルゴリズム
- 脳画像
- 神経補綴
- 知的エージェント
- 人格アップロード
重要なのは、単に「賢いロボットが誕生する」という予測ではない点。
中心にある問いは以下。
人格や自己は、特定の生物材料ではなく、保存・複製・変換できる情報パターンなのではないか
この問題を早い時期から真剣に検討。
4. 暗号技術は政治制度を変える
特に重要な論考。
- 第10号:Hal Finneyによる電子現金と匿名通信
- 第15号:デジタル通貨
- 第16号:Nick SzaboによるSmart Contracts
インターネットを単なる通信手段として捉えない姿勢。
インターネット上で実現可能になるもの。
- 匿名の人格
- 私的通貨
- 自動執行契約
- 新しい市場
- 新しい法秩序
Bitcoinそのものを予言したわけではない。
ただし、暗号経済の知的前史と呼べる議論が集中。 (HplusPedia)
5. 中央管理より自己組織化を好む
Extropyにおいて並列的に扱われる仕組み。
- 市場
- 進化
- ニューラルネット
- コモンロー
- 分散ネットワーク
共通するのは、中央の設計者が存在しなくても複雑な秩序を生み出す仕組みという理解。
初期に見られる強い政治的主張。
- 国家の消滅
- 私的な法
- 税からの離脱
- 市場アナーキズム
- 急進的リバタリアニズム
後期の原則では「Spontaneous Order」が「Open Society」へ変更。
重視される価値も以下へ変化。
- 権力の分散
- 法の支配
- 開かれた議論
- 自由な実験
- 制度の継続的改善
初期よりも比較的穏健な表現。 (Nick Bostrom)
6. 楽観主義は気分ではなく技法である
Dynamic Optimismは、「何でもうまくいく」と無条件に信じる態度ではない。
問題を認識したうえで実践する心理戦略。
- 自分が変更できる部分に注目
- 失敗から学習
- 行動可能な選択肢を増加
- 悲観や被害者意識を習慣化しない
- 望む結果に向けて試行を継続
- 状況に応じて目標や方法を修正
後に名称もPractical Optimismへ変更。 (WIRED)
7. 「未来を予測する」より「未来の制度を試作する」
雑誌内で構想されたもの。
- 予測市場
- デジタル通貨
- スマートコントラクト
- 宇宙都市
- 海上都市
- 私的法
- 知的情報フィルター
単なる未来予想ではなく、未来の技術を前提とした制度設計。
検討される問い。
- その世界では契約はどうなるか
- 人格は誰が所有するか
- 通貨は誰が発行するか
- アップロードされた人間に権利はあるか
- 国家を介さずに法秩序を形成できるか
- 情報が過剰な世界で何を知覚するか
- 強化された人間と強化されていない人間をどう扱うか
未来技術が実現したあとの社会制度を先回りして考える試み。
全号で見つけた面白い言葉・概念
Extropyで特に面白いのは、未来技術そのものよりも、従来は固定されていたものを「変更可能な変数」として言い換える語彙。
Order Without Orderers
直訳すると、「命令者なき秩序」。
- 中央管理者が設計しなくても秩序は生まれるという発想
- 市場、進化、ニューラルネット、コモンロー、分散ネットワークを同じ原理で理解
- 「誰が管理するか」ではなく「どんなルールなら自己組織化するか」という問い
Extropyの政治思想、AI観、経済観を一つに結ぶ概念。
Dynamic Optimism
楽観主義を感情ではなく、行動技法として扱う概念。
- 良い未来を無条件に信じることではない
- 問題を直視しながら、変更可能な部分へ注意を向ける
- 悲観に慣れるのではなく、選択肢を増やす
- 期待、認識、行動を意識的に調整する
「動的楽観主義」より、行動するための楽観主義と捉えるほうが理解しやすい概念。
後にPractical Optimismへ改称。
Idea Futures
現在でいう予測市場の初期名称。
- 科学、政治、技術に関する未来予測を市場で売買
- 専門家の肩書ではなく、予測の正しさに報酬
- 「何を主張しているか」だけでなく「その主張にどれだけ賭けられるか」を問う
- 市場価格を、その時点での集合的な予測として利用
議論を言葉だけでなく、損得のある予測へ変換する制度。
Human–Transhuman–Posthuman
人間を完成した存在ではなく、移行過程として捉える分類。
- Human:現在の人間
- Transhuman:能力や身体を変えつつある移行段階
- Posthuman:現在の人間とは大きく異なる能力や存在形態
変更対象となるもの。
- 寿命
- 身体
- 知能
- 感情
- 記憶
- 人格の媒体
これらすべてが変わったとき、そもそも「人間」という分類を維持できるのかという問い。
Technological Self-Transformation
自己を発見するのではなく、自己を設計するという考え方。
- 身体は変更可能
- 性格や感情も変更可能
- 認知能力も変更可能
- 人格は固定された本質ではなく、継続的に更新されるプロセス
一般的な自己啓発が「本当の自分を見つける」と考えるのに対し、Extropyは「どんな自分を作るか」と考える。
自己を完成品ではなく、継続的に更新されるバージョンとして扱う思想。
Persons, Programs, and Uploading Consciousness
人格とコンピュータープログラムの境界を問う概念。
- 人格は身体そのものなのか
- 脳内の情報パターンなのか
- 同じ人格を複製した場合、どちらが本人なのか
- 一つの人格が複数に分岐した場合、権利や財産はどうなるのか
- プログラムとして動く人格に人権はあるのか
意識アップロードを技術予測としてだけでなく、人格同一性、所有権、法律の問題として扱う発想。
Lilliputian Uploads
直訳すると、「小人サイズのアップロード人格」。
アップロード人格を非常に小さく、低コストで動かせるならどうなるかという思考実験。
- 一人の人格を大量に複製可能
- 主観時間を高速化可能
- ごく小さな機械の中で社会を形成可能
- 労働、人口、経済の意味が根本的に変化
かわいらしい名称に反して、内容はかなり不穏。
人格のコピーが安価になった社会という、現在のAIエージェントにもつながる問題。
Utility Fog
空間そのものを機械にするという構想。
Fogletと呼ばれる微小なロボットを大量に配置し、それらを組み替えることで以下を生成。
- 椅子
- 壁
- 道具
- 画面
- 乗り物
- 身体を支える構造
スマートフォンの中でソフトウェアが形を変えるように、物理空間そのものがプログラム可能になる世界。
単なる万能素材というより、物質とインターフェースの区別が消える構想。
Intelligent Information Filters / Enhanced Reality
現在のAIエージェントやARに近い概念。
- 必要な情報だけを自動選別
- 現実の風景に情報を重ねる
- 個人ごとに異なる現実を提示
- 情報フィルターが知覚や判断を補助
- インターネットを外部記憶や感覚器官として利用
単なる情報検索ではなく、何を知覚するかをソフトウェアが編集するという発想。
現在の推薦アルゴリズム、生成AI、スマートグラスが一体化したような世界。
Mindsurfing
インターネットを単なる情報倉庫ではなく、精神が移動する空間、あるいは知覚を拡張する装置として捉える概念。
- 身体ではなく注意が移動
- 他者の知識を外部記憶として利用
- ネットワーク全体を認知装置として使用
- 個人の脳とインターネットの境界が曖昧になる
ネットを使うのではなく、ネットによって考えるという発想。
Smart Contracts
契約を文章ではなく、実行可能な仕組みとして設計する概念。
- 条件が成立すると自動実行
- 仲介者なしで取引
- 暗号技術によって履行を保証
- 契約、通貨、所有権、企業活動をソフトウェア化
現在ではブロックチェーン用語として有名だが、当時はより広い意味での制度のプログラム化を指す概念。
Nanarchy
Nanotechnology+Anarchyを組み合わせた造語。
- ナノマシンによる警備
- 自動化された防衛
- 国家によらない法執行
- 個人や小規模共同体による安全保障
「国家が警察を独占しなくても、高度な自動システムが秩序を維持できるのではないか」という発想。
一方で、そのナノマシンを誰が制御するのかという大きな問題も発生。
Extropia
Extropiansが構想した、未来社会の実験都市。
- 宇宙空間または新しい領域に建設
- 自由な技術実験
- 分散的な統治
- 身体改造や長寿技術を許容
- 従来の国家や文化的制約から距離を取る
「どんな未来が来るか」ではなく、自分たちが住みたい未来を先に都市として設計するという姿勢。
Futique Neologisms
「未来的な新語」を意図的に作る企画。
新しい現象に古い言葉を使うと、古い価値観まで引き継いでしまうという問題意識。
- 新しい人格
- 新しい身体
- 新しい知性
- 新しい社会制度
- 新しい生と死
これらを考えるには、新しい語彙が必要という発想。
これらの言葉に共通するもの
Extropyの語彙には、共通する変換がある。
- 死 → 運命ではなく技術的問題
- 身体 → 与えられたものではなく設計対象
- 人格 → 固定された本質ではなく情報パターン
- 楽観主義 → 気分ではなく実践技法
- 未来予測 → 観測ではなく市場や制度による実験
- 法律 → 国家の文章ではなく実行可能なコード
- 物質 → 固定された形ではなくプログラム可能な媒体
- 社会秩序 → 上から命令されるものではなく自己組織化するもの
- 人間 → 進化の完成形ではなく途中のバージョン
一番Extropyらしい言葉を一つ選ぶなら、Self-Transformation。
Extropyの中心にあるのは「未来を待つこと」ではなく、自分自身を未来の一部として作り変えること。
雑誌はどのように変化したか
第1期・1988〜1990年
- 反宗教
- 反伝統
- 生命延長
- 性
- 薬物
- アナーキズム
- 自己改造
これらを混ぜ合わせた挑発的な未来思想ジン。
第2期・1990〜1993年
TranshumanismとExtropian Principlesの明文化。
以下のテーマが一つの思想体系として結合。
- 冷凍保存
- AI
- 自己組織化
- 予測市場
- 意識アップロード
- 電子現金
- 自己変革
- 自由市場
思想運動としての骨格が確立した時期。
第3期・1994〜1996年
抽象的な宣言から、技術・経済・法律の具体論へ移行。
中心となったテーマ。
- デジタル通貨
- スマートコントラクト
- 拡張現実
- 神経補綴
- ナノマシン
- 情報フィルター
- 身体強化
- 新しい法制度
「未来に何が起きるか」ではなく、実装した場合に何が起きるかへ関心が移行。
この運動の歴史的役割は、個別に存在していた以下の未来思想を結びつけた点。
- 冷凍保存
- AI
- ナノテクノロジー
- 自由市場
- 宇宙開発
- 長寿研究
- 暗号技術
- 分散型制度
Nick Bostromによる評価も、現代的トランスヒューマニズムの形成に重要な役割を果たした運動というもの。 (Nick Bostrom)
何が先見的で、何が弱かったか
かなり先見的だった点
- 匿名電子現金とデジタル人格
- スマートコントラクト
- 予測市場
- 情報フィルターと拡張現実
- AI・ニューラルネットと人間の協働
- 神経補綴と脳インターフェース
- オンライン上の分散コミュニティー
- 技術によって個人の身体的選択肢を増やす発想
特に現代的な内容を含む号。
- 第10号
- 第15号
- 第16号
現在の暗号技術、デジタル市場、AIエージェントを考えるうえでも重要な論点を含む。
過度に楽観的だった点
- 意識アップロード、分子ナノテクノロジー、宇宙植民、老化克服の実現時期を早く見積もりすぎた
- 技術進歩が加速すれば、資源・環境・政治問題も市場によって解決できるという強い自信
- 技術による利益の分配に関する検討不足
- 格差、障害、ケア労働への視点の不足
- 宇宙開発や海洋植民に含まれる植民地主義的発想への検討不足
- 個人の自由を重視する一方、強力な技術が生む集団的リスクを過小評価
- 企業や技術保有者への権力集中に関する検討不足
- 査読科学、思考実験、SF、自己啓発、健康商品の宣伝が同じ誌面に並び、情報の確度を判別しにくい構成
ただし、後期のMax Moreには単純な技術万能主義から距離を取る姿勢も存在。
- 技術は目的ではなく生活改善の手段
- 強力な技術は慎重に開発すべき
- 原則は固定された教義ではなく改訂可能
- 新しい情報に応じて思想も更新すべき
そのため、Extropyを単純な技術万能主義だけで説明するのも不正確。 (Extropy Institute)
最終的な理解
『Extropy』は、未来技術の予言雑誌というより、以下のような思想実験室。
死、身体、人格、通貨、法律、国家、知性といった「変更不可能に見えるもの」を、設計し直せる変数として扱った思想実験室
最大の功績。
- 個別の未来技術を正確に予言したことではない
- AI、生命延長、暗号、分散制度、心理的自己変革を一つの思想として接続したこと
- 「人間の可能性を意図的に拡張する」という共通哲学を与えたこと
- 技術だけでなく、契約、通貨、法、人格、社会制度まで再設計の対象にしたこと
最大の問題。
- 「より多くの知性・成長・自由・複雑性は基本的に良い」という前提
- その利益を誰が受け取るのかという問いの不足
- 誰がリスクや負担を引き受けるのかという問いの不足
- 技術へのアクセス格差に関する検討不足
- 強力な技術が新しい支配や依存を生む可能性への認識不足
Extropyは完成した答えではない。
現在の以下の分野を考えるための、刺激的だが偏りもある原型。
- AI
- バイオテクノロジー
- 暗号経済
- 長寿技術
- 身体拡張
- 分散型社会
- ポストヒューマン倫理
