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Critical Thinking Intellectual Standardsについて

目次

背景

いくつかの言葉の使い方や考え方の気付きが背景にあった。

「無限」という思考停止

  • 人は、本当は有限で数えられるものに対しても、安易に「無限」という言葉を使いたがる
  • 「無限にある」は、実際には「数百万件」だったり、「実データを数えれば分かる具体的な数」だったりすることが多い。それでも「無限」という言葉を便宜的・形式的に使うことで、数える・考えるという作業そのものを止めてしまっている
  • 網羅性(カバレッジ)や被覆率が効くはずの対象、つまり本来は有限であり、母集団を見積もれる対象に対して「無限」と言ってしまうと、以前の記事(Good-Turing推定)で扱ったような、実データやベースとなるデータから「本来はXXX件だった」と具体的に述べられる機会を失う
  • 「無限」という言葉は、便利であるがゆえに、思考を止める合図(thought-terminating cliché)として機能してしまう

逆を考えているか

  • もう1つの問題意識は、「ある条件を定義したとき、その逆(補集合側)のケースも定義できているか」ということ
  • 例えば、「XXX=>YYY」という命題から「¬XXX=>¬YYY」を導くのは、論理学的には妥当ではない(前件否定の誤謬)。これは正しい
  • しかし、これは単一の論理的推論の妥当性の話であって、分類ルールの網羅性の話とは別
  • 例えば、「XXXが100より大きいなら白」というルールを作ったとき、「XXXが100以下なら黒」という、残りのケースの定義が本当に抜けていないか、という確認は必要
  • 一方だけを定義して、もう一方(残りすべて)を暗黙のまま放置していないか。これはモレなくダブりなく(MECE)という考え方にも通じる、網羅性のチェック
  • 論理的妥当性の話と、ケースの網羅性の話は別物だが、どちらも「本当にちゃんと考えられているか」を確認するという点では共通している

Critical Thinking Intellectual Standardsとは

  • 上記のような「本当に正しく言葉を使えているか」「本当に論理的に考えられているか」を体系的にチェックするためのフレームワークとして、Critical Thinking(批判的思考)という分野がある
  • その中でも、Richard PaulとLinda Elderによる"The Miniature Guide to Critical Thinking Concepts and Tools"(Foundation for Critical Thinking)がまとめた、Universal Intellectual Standards(普遍的な知的基準)という9つの基準がよく知られている
  • これらは、思考の質を確認するために、あらゆる推論に対して適用すべき基準とされる。最終的には、これらの基準が学習者の「内なる声」になり、自然と良い推論に導くことが目標とされている

9つの知的基準

Clarity(明確さ)

  • 「もう少し詳しく説明してもらえますか?」「例を挙げてもらえますか?」「別の言い方で説明できますか?」
  • Clarityはすべての基準の入り口(gateway standard)とされる
  • 主張が不明確なら、それが正確か・関連性があるかを判断する以前の問題になる

Accuracy(正確さ)

  • 「それは本当に正しいですか?」「どうすれば確認できますか?」「どうすれば検証できますか?」
  • 主張は明確であっても、正確とは限らない
  • 例えば「ほとんどの犬は300ポンド(約136kg)以上ある」は、明確だが不正確

Precision(精緻さ)

  • 「もっと具体的に言えますか?」「もっと詳しく教えてもらえますか?」「もっと正確に言えますか?」
  • 主張は明確かつ正確であっても、精緻(具体的)とは限らない。例えば「ジャックは太りすぎだ」は、1ポンド太りすぎなのか500ポンド太りすぎなのか分からない
  • 背景で挙げた「無限」の問題は、まさにこのPrecisionの基準に対応する
  • 「大量にある」ではなく「実際には何件あるのか」を問うのがPrecision

Relevance(関連性)

  • 「それは問題とどう関係していますか?」「それは論点にどう関わりますか?」
  • 主張が明確・正確・精緻であっても、今扱っている論点と関連しているとは限らない
  • 例えば、授業にかけた努力の量は、学習の質を測るものではないため、成績評価とは本来無関係

Depth(深さ)

  • 「この問題を難しくしている要因は何ですか?」「この問いにはどんな複雑さがありますか?」「対処すべき難しさは何ですか?」
  • 表面的な答えで済ませず、問題の複雑さにどれだけ踏み込んで考えられているかを問う基準

Breadth(広さ)

  • 「別の視点から見る必要はありますか?」「他の立場も検討する必要はありますか?」「他の見方もあるのではないですか?」
  • 1つの視点だけで考えていないか、必要な文脈・視点を見落としていないかを問う基準
  • 他の言い方だと、多角的、多次元的、多面的、大局的に見るなど

Logic(論理性)

  • 「全体として筋が通っていますか?」「最初の段落と最後の段落は整合していますか?」「それは根拠から本当に導けますか?」
  • 背景で挙げた「逆を考えているか」の話は、このLogicの基準に対応する
  • 結論が根拠から本当に導けているか、前後で矛盾やモレがないかを確認する

Significance(重要性)

  • 「これは検討すべき最も重要な問題ですか?」「これが中心となる論点ですか?」「これらの事実のうち、どれが最も重要ですか?」
  • 些末な点にとらわれず、本当に重要な要素に焦点を当てられているかを問う基準

Fairness(公正さ)

  • 「この論点に対して、自分に利害関係はありますか?」「他者の見解を、共感的に(公平に)扱えていますか?」
  • 自分自身のバイアスや利害によって、推論が歪められていないかを問う基準

背景の2つの問題との対応

  • 「無限」を安易に使ってしまう問題は、主にPrecision(精緻さ)の基準で捉えられる。「もっと具体的に、実際には何件なのか」を問い続けること
  • 「逆を考えているか」の問題は、主にLogic(論理性)の基準で捉えられる。結論や分類ルールが、本当にモレなく筋が通っているかを問い続けること
  • どちらも、1つの基準だけで完結するものではなく、Depth(複雑さにちゃんと向き合っているか)やAccuracy(検証できる根拠があるか)とも関係している

まとめ

  • 「無限」という言葉を安易に使うことは、本来数えられる・見積もれる対象について考えることを止めてしまう、思考停止の一種
  • 「XXX=>YYY」というルールを定義したとき、残りのケース(補集合側)も定義できているかを確認することは、論理的妥当性の話とは別の、網羅性の話として重要
  • これらの問題意識は、Paul & Elderによる9つのCritical Thinking Intellectual Standards(Clarity, Accuracy, Precision, Relevance, Depth, Breadth, Logic, Significance, Fairness)のうち、特にPrecisionとLogicの基準に対応する
  • 具体的な道具として、Fermi推定(桁数レベルでも実際に見積もる)や、MECE(モレなくダブりなく)といった技術も、これらの基準を実践するために役立つ

参考文献

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