目次
背景
- ディストピア作品の代表格であるAldous Huxleyの『Brave New World』(1932年)について調べていたら、George Orwellの『1984年』(1949年)、さらにNeil Postmanの『Amusing Ourselves to Death』(1985年)という、互いに参照し合う3作品があることに気づいた
- 3作品を並べて、あらすじ・用語・印象的な言葉を比較する
- いずれも読んだことがないため、あらすじ・用語・引用はAIにまとめてもらった
Brave New World(Aldous Huxley, 1932)
あらすじ
- 舞台はAF(After Ford、フォード以後)632年のロンドンを中心とする「世界国家(World State)」
- 人間は工場のように受精卵の段階から化学的に処理され、Alpha・Beta・Gamma・Delta・Epsilonという5つのカーストに分けて生産・育成される
- 睡眠中に繰り返し音声を聞かせて価値観を刷り込む「ヒプノピーディア(Hypnopaedia)」や、副作用のない快楽・鎮静剤「ソーマ(Soma)」によって、社会の安定と市民の幸福(のようなもの)が保たれている
- 主人公の1人バーナード・マルクスは、上級カーストのAlphaだが身体的に未熟で周囲に馴染めず疎外感を抱いている
- バーナードは、保留地(Reservation)で育った青年ジョン(「野蛮人、the Savage」と呼ばれる)とその母リンダを世界国家に連れて帰る
- ジョンはシェイクスピアの作品だけを頼りに育ち、世界国家の価値観(快楽・消費・感情の抑制)に当初は魅了されるが、やがて強く反発するようになる
- 最終的にジョンは社会から孤立して灯台に引きこもるが、見世物として追いかけてきた報道陣・野次馬による狂乱(オーギー)に追い詰められ、自ら命を絶つ
重要な用語
- Soma(ソーマ): 市民を幸福に保つために配布される、副作用のない鎮静・幻覚剤
- Bokanovsky’s Process: 1つの受精卵から最大96個の同一個体を生成する技術。下位カーストの大量生産に使われる
- Hypnopaedia(ヒプノピーディア): 睡眠中に音声を繰り返し聞かせる条件づけ学習
- Alpha・Beta・Gamma・Delta・Epsilon: 受精卵の段階から化学的処置で決まる5段階のカースト
- Mustapha Mond: 西ヨーロッパの世界コントローラー。ジョンに世界国家の統治哲学(安定のために芸術・真実・自由・神を手放したこと)を説明する
印象的な言葉
- タイトルの由来は、シェイクスピア『テンペスト』のミランダの台詞から取られている
O wonder! How many goodly creatures are there here! O brave new world, That has such people in ’t.
- ジョンがロンドンを初めて見たときにこの台詞を引用するが、ミランダの無垢な驚きとは裏腹に、作中では痛烈な皮肉として響く
1984(George Orwell, 1949)
あらすじ
- 舞台は1984年の近未来、旧グレートブリテンが「エアストリップワン」と呼ばれる一州になった全体主義国家「オセアニア」
- 主人公ウィンストン・スミスは真実省で、党の方針に合わせて過去の記録を書き換える仕事をしている
- ウィンストンは禁じられた恋人ジュリアと関係を持ち、密かに日記を書くという「思考犯罪」を重ねる
- 内部党員のオブライエンに接触し、反体制組織「ブラザーフッド」の一員だと信じるが、実際はオブライエンは党の工作員で、ウィンストンを罠にかけていた
- ウィンストンとジュリアは逮捕され、ウィンストンは「愛情省」で拷問・洗脳を受ける。最大の恐怖(ネズミ)を利用した「101号室」での拷問の末、ジュリアを裏切り(「ジュリアにやれ」と口にする)、完全に屈服する
- 最終的にウィンストンは「ビッグ・ブラザーを愛している」という状態に至る
重要な用語
- Big Brother(ビッグ・ブラザー): 党の象徴とされる指導者。実在するかどうかも明らかにされない
- Newspeak(ニュースピーク): 党が設計した言語で、使える語彙を減らすことで反体制的な思考自体を不可能にすることを狙う
- Doublethink(ダブルシンク): 矛盾する2つの信念を同時に抱き、両方を信じ込む精神操作
- Room 101(101号室): 囚人それぞれの最大の恐怖を利用して屈服させる拷問室
- Telescreen(テレスクリーン): 一方的な宣伝と双方向の監視を同時に行う装置
- 党の3つのスローガン: War is Peace. Freedom is Slavery. Ignorance is Strength.(戦争は平和である。自由は屈従である。無知は力である)
印象的な言葉
- 「Big Brother is Watching You(ビッグ・ブラザーがあなたを見ている)」というポスターの文言
- オブライエンの台詞として、権力の目的は権力そのものであるという趣旨が語られる
- オブライエンによる支配のイメージ: 「想像してみよ、ブーツが人間の顔を踏みにじり続ける様を」という趣旨の有名な一節
- 小説の最後の一文は、ウィンストンが完全に屈服したことを示す「He loved Big Brother.(彼はビッグ・ブラザーを愛していた)」
Amusing Ourselves to Death(Neil Postman, 1985)
- 小説ではなく、メディア批評家Neil Postmanによる評論。副題は「Public Discourse in the Age of Show Business」
- 主張の核心は、テレビというメディアの形式そのものが、公共の議論を娯楽(ショービジネス)化してしまうということ。「メディアはメタファーである(the medium is the metaphor)」という、Marshall McLuhanの「メディアはメッセージである」を踏まえた言い回しで、メディアの形式が内容そのものを規定してしまうと論じる
- 活字文化の時代(Postmanは19世紀アメリカのリンカーン・ダグラス討論などを例に挙げる)は、読者に持続的で理性的な知的関与を要求したが、テレビの時代は、ニュース・政治・宗教・教育までも、受動的に消費できる娯楽(インフォテインメント、Infotainment)の形式に変えてしまったとする
- 序文では、Orwellの『1984年』とHuxleyの『Brave New World』が対比される。Postmanは、現代社会(テレビの時代)を的確に予見していたのはOrwellではなくHuxleyの方だと論じる。Orwellが描いた支配は国家の暴力・情報の隠蔽による統制だったが、Huxleyが描いた支配は、人々が娯楽・快楽への依存によって自ら無関心になっていく統制であり、Postmanはテレビの時代の方がHuxley的な構図に近いと主張する
3作品の比較
| - | Brave New World | 1984 | Amusing Ourselves to Death |
|---|---|---|---|
| 著者・年 | Aldous Huxley, 1932年 | George Orwell, 1949年 | Neil Postman, 1985年(評論) |
| 支配の方法 | 快楽・娯楽・ソーマによる快楽への依存 | 暴力・監視・拷問による恐怖 | テレビという娯楽メディアの形式そのもの |
| 奪われるもの | 強い感情・芸術・個人の自由意志 | 真実・記憶・言語そのもの | 理性的な公共の議論・持続的な知的関与 |
| 代表的な装置 | Soma、Hypnopaedia | Telescreen、Newspeak | テレビ(本文中ではソーマに例えられる) |
- PostmanはOrwell的な支配(恐怖による統制)よりHuxley的な支配(快楽による統制)の方が、現代のメディア環境をよく説明すると論じている
- つまりAmusing Ourselves to Deathは、Brave New Worldと1984という2つのフィクションを、どちらが現実の警告として的確かという論点で読み直す評論という位置づけ
まとめ
- Brave New Worldは快楽・消費・感情の抑制によって安定を保つ社会を、1984は恐怖・監視・暴力によって服従を強いる社会を描いた、対照的な2つのディストピア小説
- Amusing Ourselves to Deathは、この2つの対比を使って、テレビ時代の現代社会はOrwellの恐怖の統制よりHuxleyの快楽の統制に近いと論じた評論
- 3作品を通して見えてくるのは、人を支配する方法には「恐怖で押さえつける」と「快楽で満足させる」という、方向の異なる2つの道筋があるということ
