目次
背景
- Natureの記事(物理学者を対象にした、量子力学の解釈に関する調査結果)をネットで見た
- しかし、気になったのが、初めてみる単語のQBism(量子ベイズ主義)という解釈
- この記事では、調査で取り上げられた主要な解釈を整理し、その中でもQBismを詳しく扱う
物理学者への調査結果
- Afshordi, Halper, Rini, Schacher (2026)の調査では、量子力学の解釈について次のような支持率が報告されている
| 解釈 | 支持率 |
|---|---|
| コペンハーゲン解釈 | 35.7% |
| 多世界解釈(Many-Worlds) | 11.0% |
| QBism | 9.2% |
| 崩壊理論(Collapse Theories) | 6.5% |
| パイロット波(de Broglie–Bohm) | 5.8% |
| Consistent Histories | 5.2% |
| その他 | 13.2% |
| 意見なし | 13.4% |
- この調査では、QBismのような主観的(epistemic)な解釈は、別のNatureの調査では2位(17%)につけていたとも触れられている
コペンハーゲン解釈
- 量子力学の標準的な解釈として最も広く教えられているもので、ボーアやハイゼンベルクらによって確立された
- 波動関数は、測定が行われるまでの可能性の重なり(重ね合わせ)を記述し、測定によって1つの結果に「収縮」する
- 測定の結果そのものは、観測者に依存しない客観的な事実として扱われる
多世界解釈(Many-Worlds Interpretation)
- Hugh Everett IIIが1957年に提唱した解釈
- 波動関数の収縮は実際には起こらず、測定が行われるたびに、可能な結果それぞれに対応する世界に、宇宙全体が分岐していくと考える
- 観測者もこの分岐の一部であり、自分がどの枝に分岐したかを認識しているだけだとされる
パイロット波理論(de Broglie–Bohm理論)
- de Broglieが1927年に提唱し、Bohmが1952年に発展させた解釈
- 粒子は常に確定した位置を持つが、波動関数(パイロット波)に導かれて運動するという、決定論的な解釈
- 量子力学の確率的なふるまいは、初期条件についての無知から生じる見かけ上のものだとされる
崩壊理論(Objective Collapse Theories)
- GRW理論(Ghirardi, Rimini, Weber, 1986)などが代表例
- 波動関数の収縮を、観測者の有無に関係なく、自然に(確率的に)起こる物理的な過程として扱う
- コペンハーゲン解釈とは異なり、「測定」という特別な操作を持ち出さずに収縮を説明しようとする
Consistent Histories
- Griffiths(1984)、Gell-Mann and Hartle(1990年代)らが発展させた解釈
- 量子系の時間発展を、互いに矛盾しない(Consistent)「歴史」の集合として記述し、その中でどの歴史が実際に起きたかという確率を計算する
- 波動関数の収縮や観測者という特別な概念を持ち出さずに、量子力学を記述しようとする
QBism(Quantum Bayesianism)
中心的な主張
- Caves, Fuchs, Schackが2000年代初頭に基礎を作り、Fuchsが2010年に「QBism」として整理した解釈。後にMerminも主要な提唱者になった
- 量子状態(波動関数)は、物理的に実在する客観的な性質ではなく、個々の観測者(エージェント)が持つ主観的な信念の度合い(ベイズ確率)を表すとする
- 量子状態・測定・量子チャンネルは、系についての客観的な事実ではなく、エージェントの個人的な判断だとされる
測定問題の解消
- 「波動関数の収縮」を、何か物理的な過程として捉えるのではなく、エージェントが新しい経験を得て、自分の信念を合理的に更新することとして捉える
- これによって、波動関数が「客観的に実在する何か」だという前提そのものを外し、測定問題(収縮という過程が何なのか分からないという問題)を解消しようとする
ベイズ確率としての量子状態
- QBismは、Ramsey・de Finettiに由来する個人主義的ベイズ主義(Personalist Bayesianism)を採用しており、確率はエージェントが自分の無知・信念の度合いを定量化するための認知的な構成物だとされる
- 確率が0や1の場合も例外ではなく、すべての確率がエージェントの信念の度合いとして扱われる
- ボルン則(測定結果の確率を計算する量子力学の基本法則)は、現実を記述する法則ではなく、エージェントが自分の確率・量子状態の割り当てにおいて従うべき規範的な関係だとされる
コペンハーゲン解釈との違い
- コペンハーゲン解釈では、確率は客観的な準備手続きから生じ、測定結果はエージェントに依存しない客観的な事実として扱われる
- QBismでは、確率はエージェント個人の割り当てであり、測定結果もエージェントが個人的に経験する現象として扱われる
- 異なるエージェント同士は、測定の結果について話し合い、一致することはできるが、その結果はあくまで各エージェントが個人的に経験したものだとされる
批判
- Norsenらからは、QBismは独我論(Solipsism)的だという批判がある。QBism側は、これは誤解であり、独我論でも道具主義(Instrumentalism)でもないと反論している
- Stairsからは、確率1の割り当てが論理的に「信念の度合い」であるはずがないという技術的な批判がある
- Bacciagaluppiからは、非局所性の問題を解決していないという批判もある
- Marchildonのように、多世界解釈よりは明確に定義されているとQBismを評価しつつも、最終的にはBohm解釈を支持する立場もある
Participatory Realism
- QBismの提唱者たちは、反実在論(Anti-realism)という批判に対して、Participatory Realism(参加的実在論)という立場を提示している
- 現実は、三人称的な(観測者の外側からの)記述だけでは捉えきれないものだとする立場で、観測者がエージェントとして現実に参加することそのものを、実在の一部として捉える
まとめ
- 量子力学の解釈には、コペンハーゲン解釈・多世界解釈・パイロット波理論・崩壊理論・Consistent Histories・QBismなど複数があり、物理学者の間でも支持は分かれている
- QBismは、量子状態を客観的な実在ではなく、個々のエージェントが持つ主観的なベイズ的信念として捉えることで、波動関数の収縮という測定問題を、エージェントの信念の合理的な更新として解消しようとする解釈
- 独我論的だという批判もあるが、QBism側はこれを否定し、Participatory Realismという立場を取っている
- 正直あんまり分かっていないので、あとで深堀しよう
参考文献
- Afshordi, N., Halper, P., Rini, M., & Schirber, M. (2026). “Big Mysteries Survey: Physicists’ Views on Cosmology, Black Holes, Quantum Mechanics, and Quantum Gravity” (arXiv:2605.11058)
- Physicists disagree wildly on what quantum mechanics says about reality, Nature survey shows - Nature
- QBism - Wikipedia
- Fuchs, C. A., & Schack, R. (2013). “Quantum-Bayesian coherence” Reviews of Modern Physics
- Fuchs, C. A., Mermin, N. D., & Schack, R. (2014). “An introduction to QBism with an application to the locality of quantum mechanics” American Journal of Physics
- Everett, H. (1957). “‘Relative State’ Formulation of Quantum Mechanics”
- Bohm, D. (1952). “A Suggested Interpretation of the Quantum Theory in Terms of ‘Hidden’ Variables”
- Ghirardi, G. C., Rimini, A., & Weber, T. (1986). “Unified dynamics for microscopic and macroscopic systems”
