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日常で使えるHUMINTのエリシテーション技法

目次

背景

  • 昔聞いた事があるTaxiでの会話で情報を引き出す手法
    • 運転手に「タクシーって安定していて高給取りでいいですねぇ〜」と話しかける
    • すると「いやいやそんなことないですよ、実は〜」と、本当の待遇や苦労を自分から話し始める
    • 直接「大変ですか」と聞くより、あえて的外れな(やや好意的な)決めつけを置いて訂正させる方が、本音が出てくる
  • その技術はSPY、諜報・HUMINT(Human Intelligence)分野のエリシテーション(Elicitation、会話による情報収集)という技法だった
  • 会話の目的は情報交換であると同時に情報の取得もあるので、どうその技術が日常で活かせるか考えてみた
  • ここでの目的は、相手が自分から話したくなる心理状態を作ることにある

HUMINTの位置づけ

インテリジェンス収集には、情報源の種類によって複数の「INT(Intelligence)」が並列に存在する。

  • HUMINT(Human Intelligence): 人からの情報収集
  • OSINT(Open Source Intelligence): 公開情報からの情報収集
  • SIGINT(Signals Intelligence): 通信・電磁波の傍受
  • IMINT(Imagery Intelligence): 衛星・航空写真などの画像情報
  • GEOINT(Geospatial Intelligence): 地理空間情報
  • MASINT(Measurement and Signature Intelligence): 測定・特徴情報

HUMINTとOSINTは、この並列に存在する複数のINTのうちの2つであり、二項対立の「対」として設計されているわけではない。実際の情報活動では、複数のINTを組み合わせた「オールソース・インテリジェンス」として統合するのが基本。

ただし1つの軸で見ると、両者は対照的な位置にある:

  • OSINT:
    • すでに公開されている情報を、受動的に収集・集約する
    • 情報源との直接的なやり取りは不要
  • HUMINT:
    • 人との直接のやり取りを通じて、公開されていない情報(意図・内心・秘密)を能動的に引き出す

この記事で扱うエリシテーション技法は、HUMINT側の「能動的に引き出す」部分にあたる。

エリシテーションの技法

エリシテーションの代表的な技法

FBIの公開資料(エリシテーション技法に関するブローシャー)に、代表的な技法が一覧として挙げられている。

技法仕組み日常での使い方の例
Feigned Ignorance(無知を装う)「よく知らない」と振る舞い、相手の教えたがる欲求を使う「その業界よく知らないんですけど、何が一番大変なんですか」
Deliberate False Statement(あえて間違える)あえて少し間違えて、訂正させる「営業って結局、商品力がほぼ全部ですよね」→「いや実は…」
Flattery(称賛)能力・経験を認め、詳しく語らせる「それかなり詳しそうですね。どうやって判断してるんですか」
Assumed Knowledge(知識の前提)共通知識があるような前提を置く「この業界だと○○が問題になるって聞きますよね」→相手が補足する
Mutual Interest(共通の関心)共通点から警戒を下げる趣味・出身・職歴などの接点から話を深くする
Can You Top This?(もっと上の話を誘う)少し大げさな話を置いて、もっとすごい話を誘う「一番ひどいケースでも○○くらいですか」→「いや、もっとすごいのが…」
Leading Question(誘導質問)前提を含んだ質問をする「独立する前にも顧客はある程度いたんですか」
  • FBIの資料では、人には「自分は詳しいと思われたい」「人の役に立ちたい」という傾向があるとされていて、これらの技法の多くはこの傾向を利用している

教えてくださいポジションに入る

  • 「なんでそんな判断したんですか」より、「自分だったら絶対そこ見落としそうです。どこ見たら分かるんですか」の方が、相手が先生モードに入りやすい
  • すると単なる回答ではなく、「まず○○を見るんですよ。で、経験上…」と、思考プロセスまで話し始める

Ego Suspension(自分を小さくする)

  • FBIのラポール技法で紹介される考え方で、自分の賢さを示すより、相手を賢くさせることを指す
  • 「それ知ってます」「僕の場合は〜」と自分を会話に入れたがるのが普通の反応
  • 逆に、「それ知らなかったです」「それってどういうことですか」「なんでそうなるんですか」を続けると、相手のエンジンが回り始める
  • 優秀な聞き手は、自分のエンジンを止めて、相手のエンジンを回す

相手の最後の言葉を少し戻す(Paraphrasing)

  • 相手: 「最近会社辞めようかなって思ってるんですよ」
  • こちら: 「辞めようかな?」
  • 相手: 「そうなんですよ。実は上司が…」
  • 質問を大量に投げるより、相手がすでに出した糸を引っ張る方が効く
  • 軍のHUMINT教範でも、パラフレーズ(言い換え)は理解確認だけでなく、相手に「ちゃんと聞かれている」と感じさせ、より深い会話を促すとされている

仮定の話にする(Hypothetical Situation)

  • 直接「会社辞めたいですか」と聞くのではなく、「仮に今と同じ給料が別の会社でもらえるなら、残りますか」と聞く
  • 「いや、それなら移りますね」という答えが出れば、給料が問題ではないと本人自身が明らかにする
  • 聞き手が答えを言うのではなく、本人に言わせる、という点で効果が強い
  • ニーチェの永劫回帰(「この人生をそのまま無限に繰り返せと言われたら、肯定できるか」)も、構造としては同じ反実仮想の質問にあたる。「今の人生に満足していますか」という直接的な問いは建前の答えを誘発しやすいが、「無限に繰り返されても良いか」という極端な仮定を置くことで、本人が普段ごまかしている本当の評価を自分自身に対して引き出す。詳しくは「存在の耐えられない軽さ」の意味で扱っている

Provocation(あえて軽く逆を言う)

  • 「でも結局、大企業にいたほうが楽じゃないですか」と言う
  • 独立志向の人であれば、「いや、それが嫌なんですよ。俺は…」と、自分の信念を説明し始める
  • 「あなたは自由が大事なんですね」とこちらが言うより、「俺は自由にやりたいんですよ」と本人に言わせた方が強い

Reciprocity(少し自分を出す)

  • いきなり「家族とはうまくいってますか」は警戒される
  • 「自分は親と仕事のことで結構ぶつかったんですよね」くらい自分から少し出すと、「分かります。自分も実は…」となりやすい
  • ただし、大量に自己開示しないことが重要。ボールを一個だけ置いて、相手が返すのを待つくらいがちょうどいい

全体の構造

ここまでの技法を1つの流れにまとめると、以下のようになる。

  1. 安全にする: 共通点・承認・自己開示
  2. 相手のegoを起動する: 「教えてください」「詳しいですね」
  3. 小さな刺激を置く: 仮説・誤認・反論・反実仮想
  4. 相手に訂正・説明させる
  5. 出てきた言葉を反射する
  6. 「じゃあ本当はどうしたいんですか」と聞く

スパイ的コミュニケーションの本質は、巧妙な質問を大量にすることではなく、相手が自分から話したくなる心理状態を作って、そこに少しだけ刺激を置くことにある。

人のエンジンに点火するの言葉で言うと、質問はエンジンを直接回すものではなく、相手が自分でアクセルを踏みたくなる状況を作るためのもの。

まとめ

  • HUMINT(諜報分野の人的情報収集)のエリシテーション技法は、秘密情報を引き出す目的を外せば、営業・マネジメント・コーチングにそのまま使える会話技術になる
  • 多くの技法は、「自分は詳しいと思われたい」「人の役に立ちたい」という人間の傾向を利用している
  • Ego Suspension(自分を小さくする)・Paraphrasing(言い換え)・Hypothetical Situation(仮定の話)・Provocation(軽い逆説)・Reciprocity(少しの自己開示)は、どれも相手に自分の言葉で話させ、本人に結論を言わせることを狙っている
  • 全体の構造は、安全にする→egoを起動する→小さな刺激を置く→訂正・説明させる→反射する→本音を聞く、という流れで整理できる
  • このテクニックで話すのもプログラミングみたいに設計すればほしい情報に手早くアクセスできるかもしれない

参考文献

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