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動的能力主義

目次

背景

  • ある友人を支援していたことがある。しかし、支援すればするほど、彼はやる気を失っていった
  • 彼にはまだ実績がなかった。それでも支援したところ、「実績を出すためにもっと支援が必要だ」と、さらなる支援を求めてくるようになった
  • このとき、いつのまにか「支援を受け続けること」自体が彼の目的になってしまっていた
  • 実績を出してしまえば、支援を受ける理由(実績がない、だから支援が必要)がなくなる。つまり、彼にとっては実績を出さない方が、支援という「報酬」を得続けられる、合理的な選択になっていた
  • 支援という手段が目的化し、本来の目的だったはずの実績がむしろ遠ざかっていった
  • 原因は、因果の順序が逆だったこと。実績を出すための支援ではなく、実績を出した後に支援をすることが、本当は必要だった。それは小さな実績でもよかった
  • この考えをまとめて、以下のようにツイートした

That’s meritocracy. It’s closer to results-oriented management than simply merit-based management. When assigning tasks, past performance isn’t considered at first; instead, results from the starting point are compared. It’s about looking to the future rather than the past. And the starting point is the present. That’s meritocracy, isn’t it? Future over past.

間違った因果の順序

flowchart LR
    S[支援する] --> E[実績を期待]
    E --> N[実績が出ない]
    N --> R[支援がまだ必要という理由が強まる]
    R --> S
  • 支援が実績より先に来ると、このループが回り続ける
  • 実績が出ない状態こそが、支援を正当化し続ける。つまり、実績を出さないことが、本人にとって合理的な戦略になってしまう
  • どれだけ支援を増やしても、このループの中にいる限り、実績にはたどり着かない

正しい因果の順序

flowchart LR
    R1[小さな実績\n(今が起点)] --> S1[支援・評価]
    S1 --> R2[次の実績]
    R2 --> S2[さらなる支援]
    S2 -. 繰り返すたびに積み上がる .-> R1
  • 小さくてもよいので、まず実績が先に来る
  • その実績に対して支援・評価をつける
  • 支援は、次の(より大きな)実績につながる土台になる
  • このループは、繰り返すたびに実績が積み上がっていく。前のループと違って、回るほど前に進む

動的能力主義とは

  • この経験から考えたのが「動的能力主義(Dynamic Meritocracy)」という考え方
  • 普通のメリトクラシー(能力主義)は、ある意味で静的(static)。評価の基準点が「命」、つまり生まれ・経歴・これまでの実績の積み重ねといった、固定された過去に置かれがちだから
  • 動的能力主義は、評価の基準点を常に「今」に置き続ける
    • 人は固定的な存在ではなく、常に変わり続けている
    • だから、評価の起点を「生まれてから」に固定するのは間違っている
    • 起点は常に「今」。今この瞬間から何を生み出すかで見る
  • 支援や報酬は、その「今」を起点にした実績の後に与える。これがPay for performanceの考え方

違い

メリトクラシーとメディオクラシーの違い

  • メリトクラシー(Meritocracy)とよく対比される言葉に、メディオクラシー(Mediocracy)がある
  • メディオクラシーには、大きく分けて2つの使われ方がある
    • 批判的な意味: 能力のある人ではなく、凡庸・無能な人が報われてしまう体制。メリトクラシーの対抗・失敗形として使われる
    • 肯定的な意味: 十分にできる仕事を、十分な報酬でこなす、という考え方。卓越性を追い求める競争の行き過ぎへの対抗概念として使われる
観点メリトクラシー(Meritocracy)メディオクラシー(Mediocracy)
語源merit(功績・能力)+ -cracymediocre(並・平凡)+ -cracy
基本的な立場能力のある人が報われるべき(批判的)能力のない人・凡庸な人が報われてしまう体制 /(肯定的)十分な仕事を十分な報酬で行えばよい
評価の対象卓越性・優秀さ(批判的)無能・凡庸さ /(肯定的)「十分な」できばえ
典型的な文脈能力主義・実力主義を肯定する文脈政治批評での批判語、または過度な競争社会への対抗概念

メリトクラシーと動的能力主義の違い

  • 動的能力主義(Dynamic Meritocracy)は、メリトクラシーそのものを否定するわけではない。評価の基準点をどこに置くかが違う
観点メリトクラシー動的能力主義(Dynamic Meritocracy)
評価の起点過去・経歴・生まれ(命)常に「今」
人間観能力は比較的固定的なものとして扱われがち人は常に変わり続ける存在
過去の実績の扱い評価・選別の根拠そのもの未来を予測する材料(evidence)にはなるが、評価を保証する特権(entitlement)にはしない
支援・報酬のタイミング選別後にまとめて、あるいは将来に期待して与えられることもある実績の後に与える(Pay for performance)
時間的な性質静的(static): 一度の選別、固定された評価動的(dynamic): 常に「今」にリセットされ、繰り返し評価される

過去の実績の扱い方

  • とはいえ、過去の実績を完全に無視するわけではない
  • 過去の実績は、未来を予測するための材料(evidence)にはなる。例えば、次に何を任せるかを考えるときの参考情報として使える
  • しかし、過去の実績が、未来の評価を保証する特権(entitlement)になってはいけない
  • 一言でいえば、Past performance is evidence, not entitlement(過去の実績は証拠であって、特権ではない)
  • 過去は、参考にはするが、担保にはしない

まとめ

  • 支援を実績より先に与えると、因果が逆転し、実績を出さないことが合理的な選択になってしまう。これが、友人を支援して気づいた失敗だった
  • 動的能力主義は、評価の基準点を「生まれ・過去」ではなく、常に「今」に置き続ける考え方
  • 過去の実績は、未来を予測する材料として使うが、未来の評価を保証する特権としては使わない
  • 支援・報酬は、小さくてもよいので実績の後に与える。これを繰り返すことで、ループは回るたびに積み上がっていく
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