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マンドリルの顔の特徴について

目次

背景

  • マンドリルの顔は派手な配色をしている
  • マンドリルはComputer Visionでは必ず見る画像でもある
  • かなりマーヴェリックだったので調べてもらった

マンドリルの基礎知識

  • 世界最大のサル。メスは約12kg、オスは32〜54kgと、オスがメスの2〜3倍以上の体重になる著しい性的二形を持つ
  • 赤道アフリカ(ガボンに最大の個体群)の熱帯雨林に生息
  • 数十頭の複数オス・複数メスの群れが、時には600〜800頭規模の「群落(horde)」にまで合流することがある
  • 野生下で約20年、飼育下では最大46年生きる
  • 色が派手なのはオスだけで、これも性選択が強く働いている証拠の一つ

赤は血管、青は色素ではなく「構造色」

顔の色は、実は赤と青でまったく異なる仕組みで作られている。

赤:テストステロンによる血管拡張

  • 赤色は、皮膚表面近くの血管が広がる(血管拡張)ことで、血液の色が透けて見えている状態
  • この血管拡張はテストステロンによって引き起こされる
  • そのため赤の鮮やかさはオスの体内テストステロン濃度、ひいては群れの中の順位(優位性)と強く相関する
  • 実際、群れの中でアルファ(最上位)の地位を得たオスは、テストステロン値の上昇とともに顔・生殖器の赤みが増し、逆にアルファの座を失うと赤みは薄れていく
  • つまり赤は「今この瞬間の地位・強さ」を映す、更新され続ける動的なシグナル

青:メラニンでは作れない「構造色」

  • メラニン色素は茶色や黒は作れても、青は作れない
  • マンドリルの青は色素による発色ではなく、真皮のコラーゲン線維が規則的に並ぶことで光を干渉させる「構造色」
  • 平行に並んだコラーゲン線維の配列が、疑似的な2次元フォトニック結晶として働き、青い波長の光だけをコヒーレントに(干渉によって)反射している
  • この仕組みは、マンドリル以外の哺乳類の青い皮膚(一部のサル類の陰嚢など)でも独立に何度も進化しており、収斂進化の例として知られている
  • 赤と違って、青の鮮やかさはアルファの地位を失っても急には薄れない、より固定的な特徴だが、それでも順位が高いオスほど青の彩度が高い傾向がある

お尻もカラフルな理由

  • マンドリルは顔だけでなく、お尻から生殖器にかけても同じ赤・青の配色をしている
  • 発色の仕組みも顔と同じで、赤は血管拡張、青はコラーゲン線維による構造色
  • 機能については複数の仮説が組み合わさっていると考えられている
    • 群れの追跡・視認性:薄暗い密林の中で、前を歩く仲間の派手なお尻が一種の「テールランプ」のように働き、群れがはぐれずに移動するのを助ける
    • 地位のシグナル:顔と同様、オスの中での序列が色の鮮やかさに反映される
    • 座る部分の保護:硬い地面に座ることが多いため、お尻の皮膚自体が分厚くなっており、その上に色が乗っている
  • メスの場合は少し意味合いが異なり、発情期になるとお尻の皮膚が赤く腫れ上がる「性皮腫脹(sexual swelling)」が見られる。これは地位のシグナルというより、排卵期・妊娠可能なタイミングをオスに知らせるための signal
  • つまり同じ「赤いお尻」でも、オスは「地位・強さ」、メスは「今が繁殖に適した時期かどうか」という、全く違う情報を伝えている

黄色いひげと毛並み

  • 顔・お尻の皮膚だけでなく、顎ひげと首まわりの毛(ラフ)は鮮やかな黄色〜オレンジ色をしている
  • 全身の体毛自体は、灰褐色に黄色みが混ざったオリーブがかった色合いで、腹側は白っぽい
  • こちらは皮膚の血管や構造色ではなく、毛(ケラチン)に含まれるメラニン色素による発色。黒〜茶色を作るユーメラニンだけでなく、黄〜赤みを作るフェオメラニンが混ざることで、この黄色っぽい色合いが生まれていると考えられている
  • 顔の赤・青が皮膚の血流や構造色という「動的・高コストなシグナル」であるのに対し、ひげや体毛の色は基本的に生えた時点でほぼ固定される「静的な特徴」で、性別・年齢による差はあるものの、地位の変化に応じてリアルタイムに変わるわけではない
  • つまり同じマンドリルの中でも、色によって使われている仕組みも、伝えている情報の"更新頻度"も異なっている

なぜ赤と青のセットなのか

  • 知覚色空間(CIELAB)を使った分析では、マンドリルの青は「赤」とも「森の緑(背景)」とも最大限のコントラストが出るように配置されていることが分かっている
  • 進化的には、赤は旧世界ザル全般でよく見られる色である一方、青は哺乳類には珍しい色。おそらく赤が先に進化し、後から目立たせるために青が追加されたと考えられている(受信者側の視覚システムがすでに持っていた色の好みを利用する「感覚搾取」的な進化)
  • ポイントは、青と赤どちらか単独の彩度よりも、青と赤のコントラストのほうが、オスの順位を最も正確に示す指標になっているという点
  • つまり2色の組み合わせ自体が1つの複合シグナルとして機能しており、単色よりも高い情報精度でメスや他のオスに地位を伝えている

色は「正直な広告」

  • 色の鮮やかさが本物のテストステロン値・地位と連動しているため、地位の低いオスが見た目だけ派手な色を「詐称」することは基本的にできない
  • 血管拡張や色の維持にはコスト(生理的な裏付け)が伴うため、この配色は誤魔化しの効かない正直なシグナル(オナー・シグナル)として機能する
  • メスは、より鮮やかな(=赤と青のコントラストが強い)オスを配偶相手として選好する傾向がある
  • 地位を失えば赤みも落ちるので、この顔は群れの中の力関係を常にリアルタイムで貼り出している「掲示板」のようなもの

なぜニホンザルとこんなに違うのか

  • 実はニホンザルとマンドリルは、見た目の印象ほど遠い親戚ではない。どちらも旧世界ザル亜科(Cercopithecinae)の中の「オナガザル族(Papionini)」に属し、ミトコンドリアゲノムを使った系統解析では、マンドリル属+マンガベイ属のグループは、同じアフリカ系のヒヒ属・ゲラダヒヒ属よりも、ニホンザルを含むマカク属(Macaca)に近い姉妹群だという結果が出ている
  • つまり「皮膚が薄く血管が透けて赤く見える」という基本的な仕組み自体は、共通祖先から受け継いだ可能性が高い形質。実際ニホンザルも顔とお尻が赤くなる
  • ただし色の意味づけ・強調のされ方で差がついている
    • 赤の役割:ニホンザルの赤みは繁殖期に強まり、以前は妊性(発情)のシグナルだと考えられていたが、近年の研究では、地位を示す「バッジ」としての機能のほうが強いという説が有力になっている。方向性としてはマンドリルの赤(地位・テストステロンのシグナル)とかなり近い
    • 青の有無:マンドリルの青は、コラーゲン線維の規則配列による構造色で、特定の系統で独立に獲得された形質。ニホンザルの系統はこの構造色を進化させておらず、単色(赤)のみのシグナルにとどまっている
    • 性選択の強度:マンドリルは著しい性的二形(オスがメスの2〜3倍以上の体重)を持ち、群れも数十〜数百頭規模でオス間競争が激しい。一方ニホンザルの体格差はそこまで極端ではなく、群れの規模もマンドリルの「群落」ほど大きくない。性選択の圧力の強さの違いが、装飾がどこまで極端に進化するかを左右していると考えられる
    • 生息環境:マンドリルは薄暗い熱帯雨林に生息し、緑の背景から視認性を最大化する必要があったのに対し、ニホンザルは開けた温帯林・積雪地帯にも生息しており、同程度の極端な視認性コントラストを進化させる圧力が弱かった可能性がある
  • まとめると、両者は「血管が透けて赤くなる顔」という共通の基本装備を祖先から受け継ぎつつ、マンドリルは強い性選択圧と密林環境の中で、青という新しい色チャンネルをさらに追加して、より極端な方向に進化させた、という関係になる

もう一つの特徴:巨大な犬歯

  • マンドリルのオスは、霊長類の中でも屈指の長さの犬歯を持つ。長いものでは5cm前後、大きい個体では6cmを超えることもある
  • メスの犬歯ははるかに小さく、これも著しい性的二形の一つ
  • 犬歯のサイズは繁殖成功と強く相関することが分かっている。研究では、犬歯が成体平均の約3分の2(約30mm)を下回るオスは、ほとんど子を残せていない
  • つまり犬歯も、顔の色と同じく「見た目だけごまかせない」正直な身体的シグナルであり、オス同士の力比べや、メスがオスを選ぶ材料の一つになっている
  • 面白いことに、この牙をむき出しにする「グリン(grin)」という表情は、威嚇のように見えて、実際には仲間への友好的・服従的なジェスチャーとして使われることが多い。攻撃的な意味を持つ「あくび(threat yawn)」による牙の誇示とは、同じ牙を見せる行動でも文脈が異なる
  • まとめると、マンドリルは「色(顔・お尻)」と「牙のサイズ」という、少なくとも2つの独立した正直なシグナルによって、オスとしての強さ・地位を周囲に伝えていることになる

まとめ

  • マンドリルの顔は、赤と青という全く異なる発色原理を組み合わせた、哺乳類随一の派手な配色
  • 赤はテストステロンによる血管拡張で生まれる色で、地位の変化に応じて敏感に変わる動的なシグナル
  • 青は色素ではなく、コラーゲン線維の規則的な配列が光を干渉させて生まれる構造色で、赤よりも変化が緩やか
  • 赤と青は単独よりも「コントラスト」として機能し、メスや他のオスに順位を正確かつ正直に伝える複合シグナルになっている
  • 色の裏に生理的なコストが伴うからこそ、この派手さは誤魔化しの効かない「正直な広告」として性選択で維持されてきたと考えられている
  • 同じ配色はお尻にも及んでおり、密林での群れの視認性・オスの地位シグナルに加え、メスの場合は発情期を知らせる性皮腫脹という、顔とは別の役割も担っている
  • ニホンザルも同じPapionini族に属し赤い顔を持つが、青の構造色を持たず、性選択の強度や生息環境の違いから、マンドリルほど極端な配色には進化しなかった
  • 色以外では、オスの巨大な犬歯(最大6cm超)も繁殖成功と相関する正直なシグナルで、色とあわせて複数のシグナルでオスの強さを伝えている
  • 顎ひげ・体毛の黄色はメラニン(フェオメラニン)による毛の色で、皮膚の赤・青とは発色の仕組みも「更新頻度」も異なる、より静的な特徴

参考文献

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